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患者様は神様です(お灸の話)

 鍼を使うべきか、お灸にすべきか選択に悩むことがある。

 基本的な判断は、経穴(性質)と、その場所及び状態(寒熱等)によるものと教えられ、そう理解している。でもそれは思い込みの何者でもないのかもしれない。

 先日、ある腰痛患者の患部に鍼を刺していたところ、いつになく痛たがる。鍼に慣れている方で、これまで痛がることは皆無であった。本人も「なんでだろう?」と首をかしげていたが、少々我慢してもらい、何とかいつも通りに治療を終えた。

 翌週、再度来院され、腰部に施鍼すると、またしても痛がる。体に何か変化が起きているのかと、少々心配になってきたので、「今日はお灸で対応しましょうか」と案内し、「透熱灸(とうねつきゅう)」に切り替えることにした。透熱灸は写真の様な米粒(こめつぶ)の半分以下の大きさにひねってすえる直接灸である。元来は皮膚の上に直接すえ、灸痕を残すものであるが、昨今では安全とリスク管理のため、写真の様な灸点紙(専用台紙)を使用し、灸痕を残さない方法もある。(当院も灸点紙を使用)

 少々話が脱線したので元に戻すと、腰部の筋肉痛(腰痛)については、鍼、もしくは鍼の頭に団子状の灸を乗せた、その名も「灸頭鍼(きゅうとうしん)」(間接灸)というのがスタンダードだろう(鍼が苦手な患者を除く)。しかもこの方法が良く効く。逆に透熱灸を使うとすれば、骨盤や仙骨上の肌肉の薄い部位が妥当だと考えている。今回の患者は鍼に慣れた、鍼の効能をよく知っている方だ。透熱灸で代行が務まるだろうか。そんな不安まじりに、反応のある経穴に3~5壮づつすえて一応終了した。

 「お灸もいいですね。すっきりして心地いい。腰が軽くなったようだ」。施術後、こんな感想をいただいた。思っていたより透熱灸も効くようだ。ましてや「すっきり」という言葉は、施術後の感想で重要な要素だ。しばらくこの方法で対応してみよう。

 今回は、「既存の観念にとらわれることなく、頭を柔軟にすべし」との教訓を得ることができた。患者様は神様なのです。