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ギターと鍼灸師

 鍼灸師を志す以前は暇さえあればギターを弾いていました。自分でいうのもなんですが、生活の一部になっていたといっても過言ではないほどだったと思います。そんなギターをどうして突然弾かなくなったかと申しますと、他ならぬギター弾きの宿命 “弦ダコ(胼胝)” が原因なのです。
 鍼灸師にとって左手の指先は最も大切な感覚器官(指頭感覚)です(左利きは右)。左の指頭感覚を頼りに触診し経穴(ツボ)を特定しますし、はりを刺入した後 “気至る”(響き、得気とも)を得るのも私の場合は主に左手です。そんな左手のことを鍼灸用語で「押手(おしで)」といいます。押手は、はりを刺入する際、皮膚を押さえる方の手という意味です。したがって右手は、はりを刺す方の手で刺手(さしで)になります。少々話が逸れました。

 ギターを毎日弾いていると左側の指頭(皮膚)が弦の形状に陥没し、硬くて分厚くなります。こうなるとギター弾きには長く弾き続けても痛みを感じないため好都合なのですが、逆に言えば知覚(感覚)が鈍麻しているわけです。これが鍼灸師にとって欠陥となります。

 そんなわけで私は鍼灸学校入学と共にギターをほぼ封印しました。しかし約30年間ギターを良き相棒として生活していたので、時には無性に触りたくなります。本日は7月になったし、夏も本格的になってきましたので、約5ヵ月ぶりにケースから出して弦を張り替えました。指のことを気にしつつちょっとだけ楽しみたいと思います。